医療法人化は全ての院長にメリットがあるとは限りません。時間と費用をかけたわりにメリットが少ない、またはデメリットがメリットより大きかった、というケースも考えられます。医療法人化にあたっては、メリットとデメリットを具体的に検討することが非常に重要です。こちらでは、医療法人化のメリット・デメリットを詳しくご紹介いたします。
医療法人化のメリット
<節税効果>
課税所得に適用される税率が下がる
個人の場合は所得税が課されていましたが、法人の場合は法人税が課されることになります。最高税率は所得税よりも法人税の方が低いですから、実質的に税率が下がるというメリットがあります。
退職金の受け取りが可能になる
院長や家族である理事に対する退職金を支給することが可能となります。また、受け取った退職金は分離課税である退職所得となるため、税金が軽減されるというメリットがあります。
給与所得について、所得控除を受けられる
クリニックの所有者が院長個人ではなく、法人となるため、院長は法人から給与として報酬を支払われることになります。給与所得は給与所得控除を受けることができるため、課税所得が減少するというメリットがあります。
経費に計上できる費用が増えます。
家族である理事等に対して支払った役員給与や院長の生命保険料についても、法人の経費として損金算入ができるため、課税所得が減少するというメリットがあります。
相続・事業承継対策ができる
個人事業の場合は、相続又は贈与による承継となりますので、多額の相続又は贈与税の支払いが必要となる可能性があります。また、診療所の廃止手続きと新たな開設手続きを行う必要があります。法人では、後継者を理事長に選任し、拠出金を贈与又は譲渡することで事業承継が可能となるというメリットがあります。
<その他>
分院など複数の診療所を開設することができる
個人事業ではできなかった、分院展開が法人では可能となるというメリットがあります。
資金繰りが改善する
法人では社会保険診療報酬に係る源泉徴収がなくなるため、資金繰りが改善するというメリットがあります。
信用度が増す
法人化することで、院長個人の財布と法人の財布が分けられ、決算状況を正確に把握することができることから、金融機関をはじめ、対外的な信用度が高まるというメリットがあります。
医療法人化のデメリット
持分なしの医療法人しか設立できない
医療の公益性・非営利性という観点から、現在は出資持分のない医療法人しか設立することができません。このため、出資者は、解散時に残余財産の分配を受けることができず、残余財産は国や地方公共団体などに帰属することになります(基金拠出型医療法人は持ち出した金額分だけ戻ってきます)。解散時に残余財産を残さなければ問題はありませんが、計画的に役員報酬や退職金を設定し、残余財産をコントロールする必要があります。
社会保険へ加入が強制となる
個人事業の場合、従業員が5人未満であれば社会保険の加入義務はありませんでした。医療法人の場合、社会保険への加入が強制となり、従業員が個人で負担していた社会保険料の半分を法人が支払うことになります。また、国民年金から厚生年金に切り替わることで、多くの場合、社会保険料が増加するというデメリットがあります。ただし、これらの法人負担額は損金算入が可能です。
事務手続きが増加する
法人化に際し、設立登記や個人事業の廃止届など各種手続きや届出が必要となりますが、この手続きが煩雑です。設立後も毎年事業報告書等を作成し、決算の届出を都道府県知事に提出する必要があります。また、資産登記や役員変更の届出、理事会の議事録作成など、事務手続が増加します。
交際費に損金不算入額が発生する
個人事業と異なり、法人は交際費の損金算入限度額が設けられているため、内部留保が多額にある場合など、損金処理できる交際費が大幅に減少する可能性があります。
利益の配当が禁止される
医療法人の非営利性の位置付けとして、医療機関等の運営により生じた利益(剰余金)を社員等へ分配することは禁止されています。