平成30年税制改正により、事業承継税制の特例制度が設けられ、従来の適用条件が緩和され、適用範囲が拡充されることになりました。この特例制度は期間限定のため、期限内に事業承継税制の適用を受けることにより、経営者が保有する会社の株式(医療法人の場合は出資持分)を、後継者に贈与又は相続する際に課せられる税金の100%を一旦猶予し、その後一定期間保有することで免除することが可能となります。
<事業承継税制>
事業承継税制とは
今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業、小規模事業者の経営者は約245万人になるにもかかわらず、半数以上が事業承継の準備を終えていないと言われており、中小企業の経営者の高齢化や後継者不足による事業廃止が深刻な問題となっています。
平成21年税制改正において、事業承継の妨げとなっていた多額の相続税、贈与税を、猶予、免除する事業承継制度を創設されましたが、適用条件の厳しさから実際の適用件数は想定以上に伸びませんでした。平成30年税制改正において、適用のネックとなっていた雇用維持等の条件を緩和することで、事業承継税制の適用件数を増加させ、中小企業の事業継続を支援することを目的としています。
事業承継税制の特例制度
平成30年1月1日から平成39年12月31日までに、事業承継税制の特例の適用を受けた場合には、後継者への事業の引継ぎに伴う自社株の移転に対して、贈与税・相続税の100%が猶予・免除されるというかなり太っ腹な制度です。親族外を含む複数の株主から、最大3名の後継者に対する贈与等についても特例の対象になります。
事業承継税制の特例制度の適用条件
平成30年4月1日から平成35年3月31日の間に「特例承継計画」を都道府県に提出し、「特例認定承継会社」となる必要があります。特例承継計画には、特例認定承継継会社の後継者、承継時までの経営見通し等が記載されている計画をいいます。これは、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けて計画されたものでなければなりません。その他、具体的な適用に際し、適用要件が定められていますが、難しいものはありません。
<認定医療法人制度>
この他、事業承継とは異なりますが、持分あり医療法人から、持分なし医療法人へ移行については、認定医療法人制度の適用を受けることで税負担なしで移行することが可能となります。
従来の問題点
従来は、持分あり医療法人の出資者が持分を法人に贈与し、持分なし医療法人に移行した場合、医療法人に対して贈与税が課されていました。持分あり医療法人は平成19年4月1日以降、設立が認められていませんので、持分あり医療法人は比較的設立が古い法人となります。
医療法人は利益の配当が禁止されているため、経営がうまくいっている場合、内部留保が多く、出資金の評価額が多額になるケースが考えられます。この場合、贈与税が多額にかかることになり、従来、持分なし医療法人への移行を妨げる要因となっていました。
認定医療法人制度の概要
一定の要件を満たし、厚生労働大臣の認可を受けることで、税負担なく持分なし医療法人へ移行することができます。
認定医療法人制度の適用条件
平成32年9月末までに、認定医療法人に求められる一定の要件を満たし、認定申請に必要な書類を提出します。なお、認定時の一定の要件を、移行から6年間継続して満たす必要があります。
認定医療法人制度の適用要件
細かい要件はありますが、3年以内に移行する予定である、保険診療報酬に係る収入等が全体の80%超など、多くの医療法人で適用できる条件となっています。
事業承継税制の特例の適用を受けることにより、持分ありの医療法人の相続税、贈与税も猶予、免除が可能となります。ただし、持分なし医療法人に移行するということは、今まで築いてきた財産を放棄するということです。一度、持分なし医療法人に移行してしまうと、持分ありの医療法人に移行することはできません。どちらも、税務上の優遇措置を受けられる間に対応できると大きな節税効果が得られますので、慎重に検討する必要があります。